発達障害を持つ女医がこころの病気と健康について語る。
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日本の精神科医療の現実〜わが邦に生まれたる不幸〜

 

精神科って怖いところ?

さて、今回は少し趣向を変えて、精神科の医療について話します。

精神科って、なんか怖そう・・・

そんなふうに考えてはいませんか?

1駅に1軒、精神科のクリニック

実は最近、精神科のクリニックは増えています。

「精神科」っていうと引かれてしまうので「心療内科」と書いてあるところもあります。

「精神科」「〇〇(最寄り)駅」「クリニック」
と入れて検索をしてみましょう。絶対に1つはクリニックが引っかかります。
むしろ、それで近くの駅にクリニックがなかったら「開業の穴場」かもしれません(笑)

そして、現在は「精神科の受診」のハードルは下がっています。

「自分はなにものなのか?」を求めてくる患者

「自分は何のために生まれてきたのか」
「自分は何をしたらいいのか」

その答えを求めて受診する人もいます。
昔なら考えられなかったことです。
(その答えはあげられないことが多いですが)

歴史を残す「精神科病院」

一方で、「入院施設を持った」「精神科だけ」の病院があります。
100年以上の歴史を持つような精神科病院から、
最初の東京オリンピックのために乱立された精神科病院まで。
新しく建設されることはないですが、全国にまだまだたくさんあります。

「精神科」の「入院」

精神科の入院をする人って、どんな人をイメージしますか?

なんかずっと叫び声をあげてる人がいそう
普通に話をしても通じない人が多そう
絡まれたら怖そう

うんうん。そんなイメージずっとありますよね。
住んでいるところの近くに精神科病院があったりすると、
「悪いことしたら〇〇番に電話するよ!!」
と脅されて育ったことがある人も、ひょっとしたらいるかもしれません。

意外と普通の人が多い「精神科病院」

精神科病院ができたころは「薬がない」状態でした。
それこそ、神経梅毒に対するペニシリンぐらい。

歴史
1952年に「クロルプロマジン」という薬が発明されて、精神科医療は大きく動きました。
精神科の患者さんは「閉じ込めておくもの」ではなく「治療するもの」へ変化したのです。

現在は、うつ病にも、統合失調症にも、躁うつ病にも、発達障害にも、使える薬がいろいろと出てきています。
毎年1つ、何かの病気に対しての新しい薬が開発される、そんな時代です。

わが邦に生まれたる不幸〜歴史

現代の「私宅監置」

この数年、忌まわしい歴史を思い起こさせる、現代の「支度監置」とも言えるニュースが出てきています。

寝屋川市における33歳の長女を監禁して死亡させた両親の話

兵庫県三木市における、精神疾患のある長男を20年以上監禁し続けた両親の話

どちらもインパクトがあったので、覚えておられる方もいるでしょうか。

昔は当たり前だった「私宅監置」

非常にショッキングでインパクトがあり「虐待でしょ!!」といえる事件。

実はこれ、1950年までは「法律」で認められていたんです。

私宅監置

といいます。
(そして、一度アメリカに入れられた沖縄では1972年まで私宅監置は行われていました。
 現在でも使われていた「小屋」が残っている場所があります。)

江戸時代の「座敷牢」が明治に入って合法化

江戸時代、「精神的におかしい」「面倒をみきれない」人は、座敷牢に閉じ込めていました。
明治時代になって、近代化が進むと、医療も進んでいきます。
でも、「精神科病院」や「精神科病棟」はすぐに増えない。
だいぶ足りない。

そこで、苦肉の策が生まれます。

「私人が行政庁の許可を得て、私宅に一室を設け、精神病者を監禁する」

要するに、「自分の家でなんとかしろ」ってことです。

届け出はいりますが、届け出ても補助金は出ません。
「月に1回は医者に見せろ」っていうけど治療費もタダにはなりません。
「定期的に警察が見にくる」っていうけどまあ来ません。

どうなるでしょう。

その家の保有資産によって扱いが左右されます

当たり前です。
お金があれば、お金をかけてあげられるし、
お金がなければ、お金をかけてあげることはできません。

明治時代に、そのことをなげいた医師がいた

この、私宅監置の様子を全国をめぐって調査した、
東京帝国大学の精神科の初代教授の、呉秀三は、こういいます。

『わが邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の他に、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし』

今の言葉で言いかえれば、

呉秀三のことば
日本に十何万人といる精神科の病気を抱えている人は、
「病気になってしまった」という不幸の他に、
「この国に生まれてしまった」という不幸が重なっている

それほど、この「私宅監置」ってひどかったんです。

読むのはかなりハードルが高いんですが、今も出版され続けている本。

この2冊。私は超絶おすすめします。
当時は「プライバシー」とかあんまりなかったので、
私宅監置されている場所や患者さんの「写真」が多いんですよね。
この写真を見られるだけでも一見の価値があると思います。

精神疾患があっても地域で暮らす社会

医療費の削減の一環でもありますが、精神科患者さんが病院でない場所で生活していくことが、国の方針として決まっています。
精神障害者の方の地域生活への移行支援に関する取り組み

ぶっちゃけた話、精神科病院は、
病床を減らせば減らしただけ補助金がもらえる状態
です。

でも、その方向自体に賛成していても、
「いざ、自分の家の近くにそういう施設ができるのは反対」
っていう人が、多いです。
まあ、日本って狭いんで。

病院・グループホーム・訪問看護・ヘルパーなどなど
一人の患者さんを取り囲む応援団が、今はいっぱいいます。

「精神科の病気を持った患者」である前に「ひとりの人」

いろんな個性、あるじゃないですか。
友達だってみんな同じタイプとかじゃないですし。
精神科の患者さんもね、同じなんです。

患者である前に、ひとりの人。個性盛りだくさん。
だから、怖がるのは「一度話してみて」からでいいんじゃないかな、と思います。

そして、精神科に通ってるなんてやたらめったら話すことじゃないので、
「あなたのそばに、意外に」患者さんはいるのかもしれません。

まとめ

まとめ

クリニックは乱立し、精神科の受診のハードルは下がっている
一方で精神科病院に対して、中の患者さんに対して、根強い偏見はある
「患者」である前に「人」である
怖がらずに接してみて、怖かったら逃げたらいいのでは?
でも実は知らずに、すでに精神科の患者さんと接しているかも

今日のお話は以上になります。最後までお付き合いくださりありがとうございました!

April 02, 2020 - posted by みずき@精神科医

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