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裁判官と精神保健指定医の共通点(要するに人権の話)

 

裁判官と精神保健指定医の共通点、知っていますか?

まず、「精神保健指定医」ということばを聞いたことがありますか?
「精神科医」とはすこし違いますので、また後で解説をします。

裁判官と精神科医ってぜんぜん仕事違くない?

と、思われるかたが多いのではないかなーと、思います。
でも実は、「ささやかな共通点」があるのです。
そのささやかな共通点について、今日は説明したいなと思っています。

裁判官と精神保健指定医にしかできないことがあります

それはずばり、「人権侵害」です。

では、人権侵害っていったいなんなんでしょうか?
かんたんにいうと、「憲法の認める基本的人権」を侵害する行動のことです。
でもそんなこと言われたってよくわかんないよ!という人のために、
法務省の「人権侵害の被害を受けた方へ」というページが役に立つかもしれません。
具体例などが豊富ですし、もし本当に「人権侵害」をされたとしたら、どういうふうに立ち向かっていったらいいのかが、わかります。

刑事ドラマなどで刑事が逮捕をしていますが・・・

では、刑事ドラマなどで刑事さんが犯人に向かって逮捕状を見せながら、

〇〇さん殺人事件の犯人としてお前を逮捕する!!

とかいうじゃないですか。崖の上とかで(2時間ドラマのみすぎかな(汗)
ああいうシーンを見ると、勘違いしませんか?
刑事さんにも人権侵害をする権利があるんじゃないか。
って。

逮捕状のからくり

逮捕状を発行するのは、裁判所で、裁判官の命令で発行されるものなのです。
刑事さんは、裁判官の命令にしたがって犯人を「逮捕する」だけなんですね。

だから、刑事さんには厳密には人権を侵害する権利は、ありません

精神科医と精神保健指定医ってどう違うの?

さて、最初に「精神科医」と「精神保健指定医」の違いを説明すると書きましたね。
みなさんが、精神保健指定医ということばを聞いたのは、おそらく聖マリアンナ医科大学のあの事件ではないかと思います(→詳細はこちら
「精神科医」というのは、医師免許があれば誰でもその日から名乗ることができますが、「精神保健指定医」となるとそうはいきません。

精神保健指定医になるためには

精神保健指定医になるための条件(最新版)
  • 精神保健指定医、というのは厚生労働省の定める「国家資格」です。
  • 1、医師になってから5年以上経過していること
  • 2、精神科の指定された病院で勤務して3年以上経っていること
  • 3、定められた研修を受けること
  • 4、所定の精神障害の治療を行い、レポートを作成し、合格すること
  • 5、課せられた面接試験に合格すること

これだけの条件が必要で、レポート&面接の合格という2つの条件があります(最新版)
これは新制度で、聖マリアンナ医科大学の事件のために面接が追加されました。
レポートを出して申請してから、合格という結果が出るまでには1年半かかるとのことです。
(筆者はその前の制度で合格しております)

精神保健指定医の仕事

では、「精神保健指定医」のお仕事ってなんでしょうか?

精神保健指定医のお仕事
  1. 措置入院が必要かどうかの判定
    →措置入院というのは、「精神疾患のために」「自傷他害のおそれ」がある人を強制的に都道府県の命令で入院させることです。その判断をするのが精神保健指定医です(しかも2名以上)。これは、公務員としてのお仕事になります。
  2. 医療保護入院が必要かどうかの判定
    →自傷他害のおそれはないものの、「精神疾患のために」入院が必要な患者さんを、「家族等の同意のもと」で入院させることです。本人が「入院します」と言わないので、強制的にな入院となり、人権侵害にあたります
  3. 隔離・拘束などの処遇の判断
    →自傷行為を防ぐため、暴力行為を止めないと十分な看護ができない、刺激を避けるなど、いろいろな精神科の病気の症状で「隔離(鍵のかかる個室にいてもらうこと)」や「拘束(拘束帯を使って体を押さえつけること)」が治療の中で、一時的に必要な場合があります。その判断も精神保健指定医が行います。

これだけ書けば、「精神保健指定医というのは、職務により人権侵害を命じることのできる人なのだ」とわかるかと思います。
そして、かんたんに「精神保健指定医」という認定をしてはならないのも、わかりますよね。
(裁判官になるのもあの難関の司法試験を上位数%で合格する必要があるわけですから・・)

あくまで「精神疾患を持った人」のためのもの

あくまで、「精神疾患」のある人に対して行われる行為です。

ここは大事なポイントなのですが、「他害のおそれ」といっても、精神疾患のない「犯罪予備軍」のような人たちを閉じ込めておくところではありません。

津久井やまゆり園事件の話を軽く解説

津久井やまゆり園の痛ましい事件、死刑判決が確定したようです。
この場合、犯人はその数ヶ月前まで「措置入院」をしていたとのことでした。
でも裁判では、「精神疾患の影響はない」と判断がくだされています。

この犯人は「優生思想」を持っているけれども「精神疾患ではない」と裁判所が認めた。

ということがわかります。

犯人は「優生思想」の持ち主でした

では、「優生思想」ってなんでしょうか。
最近、「優生保護法で強制不妊手術を受けさせられていた人」の裁判などを耳にします。
ここに、広島大学の教授の解説がありますので、ご覧ください。

この2冊は非常に考えさせられる「優生思想」を扱った本です。
興味があればぜひ読んでみることをおすすめします。

「優生思想」の歴史は長くヒトラーにも関係します

実は、「優生思想」を一番体現したのは「ヒトラー」です。
ユダヤ人は劣っている民族だから殺さなければならないという思想のもと、
たくさんの強制収容所を作り、ユダヤ人を虐殺した(ちょっと解説がかんたんすぎるかもしれません)。

どちらも出版は2019年、2018年と比較的新しい本です。そのために読みやすく工夫がされています。
テーマが重たいので、なかなかとっつきにくい本だとは思いますが、精神医学にすこしでも興味がある方には、ぜひ読んでほしい本です。

一個人が誰かの人権を侵害しないために、
精神保健指定医と裁判官がいます

不当に人権侵害しない
旧優生保護法では、親にも本人にも同意なく、不妊手術が行われていました。
これはあってはならないことです。
ですから、人権侵害をする必要がある場合は限らなければならない。
そして、人権侵害をすることのできる人間は限らなければならない。
だから、裁判官がいて、精神保健指定医がいるのです。

まとめ

まとめ

今回はすこし難しい人権の問題をとりあげました。
人権を侵害するというのは、普通に考えたらあってはならない行為です。
ですから、津久井やまゆり園の犯人は死刑判決となったわけです。
でも「どうしても人権を侵害しないといけない場合もある」。
そのために、精神保健指定医と、裁判官がいます。
そんなことをこの記事で覚えて帰っていってもらえたらなあ、と思います。

 

 

May 07, 2020 - posted by みずき@精神科医

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