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精神科の「診断」について(DSM、ICDの話)

 

「精神科の診断」への誤解?

精神科って、先生によって診断が変わるんでしょ?

 

 実は、昔は、そうでした 

イギリスにおいて「統合失調症」と診断されている人を、アメリカの精神科医が診断を付け直したところ半数以上が「躁うつ病」と診断が変更された(文献探しきれませんでした)

という話があります。医師の経験値に基づく「従来診断」で診断をしていたために、「どこで」「誰が」「どの流派の先生で」診断を受けるかで、診断が変わってきてしまっていました。

診断の、「共通言語」がほしい-DSMの誕生-

精神科医同士が話しているのに、同じ言語を使っているのに、話が通じない、このままでは精神医学は進歩していかない。と考えた人がいます。
そのため、「アメリカ精神医学会」が中心となり、
「精神科の症状」を「操作的判断」することによって、診断を下し、精神科医の間に共通言語を生む、というのが目標でした。

改訂を重ねて、今はDSM-5
  • 開発された当初は「白痴」と「狂気」しかなく、黒人は全員精神異常と書かれている粗末なものでした。
  • 第2版で、「神経症」や「人格障害」の言葉が見られ始めます。
  • DSM-Ⅲではかなり「客観的診断」によったものの、まだ完全ではありません。
  • DSM-Ⅳ(DSM-Ⅳ-TR)はかなり客観的診断で、批判もありましたが一定の成果が評価されました。
  • DSM5では初めてローマ数字が用いられましたが、徐々にブラシュアップされて、当初の目的を遂げつつあるのかもしれません。

現在は、若い精神科医はこのDSMを学ぶところから始めます。共通言語を覚えるのです。そして、そのあとは実践トレーニングです。この患者さんには、DSMに書いてある症状が必要なだけそろっているので、「〇〇と診断」しても良さそうだ。
こういった形です。

それでも、脈々と残る従来診断

精神科医は手技がありませんから、かなり高齢のお医者さんでも働けます。そして、そういったひとたちは「従来診断」で訓練を受けてきた人たちです。

そして、稀にそういった先生方から出る操作的診断で使われる言葉にハッとさせられることもあります。患者さんの醸し出す雰囲気、発する言葉の子細な部分、これをこういった風にとらえるのか!と勉強にもなります。

そういったとき、「従来診断」にも本当は価値があるのではないかと考えさせられます。今、精神科の第一線から退き始めている先生方からの勉強は、本当に役に立ち、精神科医というのは本当に成長に終わりがないのだと知らされます。

ICDの誕生

ICDというのは、日本語で言うと「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」となり、これは精神科だけにはとどまらず、全ての疾患で使われている指標です。
現在は基本的にWHOを中心として作られているもので、ちかごろICD-11というのができましたが、これはまだ正式には日本語になっていません。
これも、精神科医にとっては「共通言語」を使うための一助になるものです。
DSMとICDは、全く違う流れで生まれてきたにもかかわらず、精神科に「共通言語」というものを与えました。

ただし、経過とともに診断が変わることはある

 具体例 
  • 典型的なうつ病だと思って治療していた若年女性が、急に幻聴を訴え始めた
    →その後の経過次第で、うつ病だった診断が統合失調症に変わるかもしれません
  • 長年うつ病だと診断されてきたおばあちゃん、ちょっと物忘れがひどくなり、MRI検査でもアルツハイマー型認知症をしめしている
    →うつ病に加え、アルツハイマー型認知症が診断に付け加えられるかもしれません。/li>

これは、「共通言語がなかったから」起きたことではなく、人の人生には長い「歴史」があり、歴史は移ろっていくということです。

まとめ

まとめ

精神科には、従来から行われていた感覚的な「従来診断」があり、場所や医者によって診断が変わることがザラにあった。
そのためDSMやICDといった共通言語が生まれ、精神科医同士で患者について共通の認識を持って話し合うことができるようになった

 
今日は以上になります。後期研修医の先生は、下記の本でもう一度詳しく勉強してみてくださいね。

May 09, 2020 - posted by みずき@精神科医

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