精神科単科病院での新型コロナウイルス発生を受けて(所感と覚悟)
2020.4.21、精神科単科病院での新型コロナウイルス発生が報道されました
みなさま、院内でクラスターを発生しただの、そういった情報には興味があれど、
その病院が「どんな病院か」ということには、あまり興味がないかもしれません。
七山病院の場合(大阪府熊取町)
七山病院というのは、関西空港に近い、大阪の南の方の病院で、
「精神科単科病院」
です。内科の常勤員がいるのかどうか、とか、そういったことは知りません。
ただ、内科の常勤の医師のいる精神科の単科病院なんてひとにぎりで、基本的には非常勤の週に1−2回くる内科の医師で対応している病院がほとんどです。
また、大阪では「なみはやリハビリテーション病院」の院内感染がセンセーショナルですので、ニュース自体が少しなりをひそめていた印象です。
しかし、病院のHPにはしっかりと新型コロナウイルスの顛末が載っています。
新型コロナウイルスに対する重要なお知らせ(七山病院)
このケースの場合、亡くなった2人のうち、
ということがわかります。
相州病院(神奈川県厚木市)の場合
これは、相州病院のクラスター発生を取り上げたNHKのニュースです。
最初の新型コロナウイルス患者は「措置入院」の患者であったことがわかります。
本人の意思にはもちろんよりません。家族の意思も反映されません。
2人の精神保健指定医(国から認定を受けた医者)の診察によって入院が決定し、入院費用に関しては税金から支払われるという入院です。
この措置入院の重要なところは「解除されるまで病院から出してはならない」ということです。
ただ、「精神科病棟を持っている総合病院」への搬送には「精神保健福祉法」で定められた基準があり、精神保健指定医1名の同乗を持って、相手方の病院に届ける、という搬送方法があります。
ここで、記事の中から少し院長代行先生の言葉をピックアップさせていただくと、
「精神症状がある患者ということで転院できず、結果として感染者を出してしまい遺憾に思います。感染した精神科の患者の受け入れの仕組みが必要だ」
この言葉、非常に重たく受け止めていただきたいな、と思うのです。
ただの骨折や心不全さえ転院を拒否されてきた歴史
精神科しかない、精神科単科病院というのは、全国にごまんとあります。
第1回目の東京オリンピックの時に量産されたからです。当院もその時期にできています。
精神科の不足の名のもとに、看護師一人当たりに割り振られる精神科患者というのは、15:1で許されてきました。一般病院では、あり得ない数に思われる方も多いでしょう。
(あ、もちろん精神科でも「急性期病棟」では1人の看護師さんが請け負う患者さんの人数は少ないです)」
精神科の病院に50年近く入院したまま、という患者さんもたくさんいます。
こんな依頼すら、拒否されてきました。こんなふうに。
新型コロナウイルス(COVID-19)だからといって急に転院させてくれるわけがない。
わかっていました。
でも、相州病院の先生のおっしゃる通りで、「マスク」「ガウン」「防護服」は「精神科だから」と供給は後回しにされています。
だから、今回、病棟内でクラスターが発生したのではないかと言われる事態が起きた。
今までも、露骨に、「うちは精神科病院からの転院はとらないから!」と明言してくる大病院もありました。しかも、どちらかというと公的な病院じゃないのかと思われる病院で。
(筆者が全て言われてきたことなので被害妄想ではありません(笑))
誰にでも新型コロナウイルスの治療を受ける平等な機会を
精神科医の、悲痛な胸の内です。
もちろん、当院で新型コロナウイルスが出た場合、おそらく相州病院と同じ、「棍棒でラスボスに立ち向かう」こととなるのでしょう。その覚悟は、最初からすでにできています。
当院の方針としては、
「新型コロナウイルスが発生した場合は病棟内で収束を目指す」
ですので、他の病棟の患者を全力で守る。外来は全て電話にする。
「ウイルス性のARDS(呼吸不全を伴う死にそうな病状)」に対して、「酸素吸入」以外のカードは持っていないですからね。
棍棒すら持てているのか怪しいところです。
でも、やるしかない。精神科の単科病院には、「他の科の医師」ですら「偏見の塊」をお持ちなんです。それが、現実です。
まとめ
少し熱くなってしまいましたが、おそらく全国の精神科単科は同じ思いかなと思います。