発達障害を持つ女医がこころの病気と健康について語る。
よりすぐりの正しいことを発信して、どこまでいけるのかチャレンジするブログ
  YouTube

精神科の黒歴史:ロボトミー手術(人権侵害)

 

ロボトミーって、知っていますか?

これは、精神科に「薬」というものが全くなかったときに、凶暴な精神科患者を治療する「画期的な手術」として誕生しました。ポルトガルの精神科医、モニスによって考案され、アメリカのウォルター・フリーマン博士の手によって、ワシントンDCで行われたのが最初と言われています。

その当時、神経梅毒には「ペニシリン」がありましたが、いわゆる統合失調症や躁うつ病には「治療薬」というものがありませんでした。
患者さんは「隔離施設で鎖に繋がれているのが普通」でした。それほどまでに「凶暴である」と思われていたとも言えます。

そんな中、脳の前のほうにある「前頭葉」というものを切除することで、「凶暴だった患者」が「凶暴ではない患者」になりました。

しかし、てんかん発作、人格が変わって別人のようになる、無気力になってしまうなど、元に戻ることのない取り返しのつかない副作用が起きました。

黒歴史
ただ、全く治療のできなかった精神科の患者に対する治療法を生んだ、ということで、考案したモニスは1949年にノーベル賞医学生理学賞を受賞します。
このノーベル賞の受賞が、精神科にとって黒歴史なのです。だって、患者さんは「元の自分の人格」を失ってしまうのだから。
「人権侵害だ」といってそのあとたくさんの批判にさらされます。

また、1952年には画期的な治療薬である「クロルプロマジン」が発明され、次々に効果のある薬が出てきたことで、「精神外科」とも言われるべき「ロボトミー手術」は行われなくなってきています。

日本でのロボトミー手術

日本では、昭和17年に新潟大学で行われたのを皮切りに、「統合失調症の患者」を選んで、たくさんのロボトミー手術が行われてきました。

モニスが批判にさらされ、世界中でロボトミー手術が行われなくなってきてから後も、日本はロボトミー手術が行われてきました。なんと、昭和50年に日本精神神経医学会が中止を勧告するまで、ずっと。

ロボトミー手術をめぐる事件
ロボトミー手術をしたせいで「自分の人間性を取り上げられた」と怒った患者が、精神科医の家に押し入り、妻や子どもを殺害するという事件も起きています。

昭和50年まで手術をされていたということで、現在もロボトミーを受けた患者さんというのが日本には生存しています。主に精神科の単科病院に入院し続けてることが多いですが、私が見たロボトミーを受けたことのある患者さんは、以下のような状態でした。

 私がみた一例 

その患者さんは、「言葉を発する」ことはできないようでした。
意志の疎通が図れないので、排泄については基本的におむつでした(高齢のせいもあるかもしれませんが)。
歩き方は「突進歩行」と呼ばれるもので、下を向いて頭から突撃するような歩き方(もはや走っているに近い速度だった)でした。これは前を見ていないので危なくて、ときどきブツかって転倒されていました。

「人間性がなくなっている」「人権が侵害されている」と言わずしてなんと言えるでしょうか。ロボトミー手術は、精神科の歴史の中で闇に葬られてきたのです。
 

ロボトミー手術を記録として残す

そんなロボトミー手術ですが、その負の歴史も、しっかり語り継いでいこうという流れになっています。

左側は、ロボトミー手術をたくさん行ってきた人で、その自伝です。ロボトミー手術を行ったこと、その事実と向き合って、書き溜められたもので、苦悩や思いが非常に伝わりやすくなっています。
右側は、12歳でロボトミー手術を受けた人のその後の人生を書いたものです。
ただ「やんちゃである」というだけで義母の同意でロボトミー手術を受けさせられ、そんな中で、どんな人生を歩み、自分の人生を少しでも取り戻そうと、生きる姿を書いた本です。
どちらも良書で、非常におすすめです。

かつてはそれらは「精神外科」と呼ばれていた

この手術は、脳神経外科ではなく、精神科医の手で行われていました。
そして、その時は「精神科」とは別に「精神外科」という科が存在していました。
この「精神外科」今となっては聞いたことない人も多いと思うのですが、
精神科の黒歴史だからといって、目を瞑って逃げていてはいけないのです。

まとめ

まとめ

かつて精神外科と呼ばれ、凶暴な人の脳を切除する、ロボトミー手術というものがあった。
副作用として人格が変わってしまったり、人間性を失う手術であるため、治療薬の登場とともになくなっていきました。
今では「精神外科」そのものがありません。
負の歴史だからといって蓋をしてしまうのではなく、語り継がれていくべきものだと考えています。

最後までありがとうございました。Twitterもフォローしていただけると嬉しいです!

April 28, 2020 - posted by みずき@精神科医

カテゴリー