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香川県「ネット・ゲーム依存症対策条例」を可決

 

香川県が「ネット・ゲーム依存症対策条例」を可決

 
2020年3月18日、香川県議会において、
「ネット・ゲーム依存症対策条例」が可決。
4月1日より施行されます。
 

全国で初めてのゲーム依存症の対策条例

 
この条例には

  1. 午後10時以降のゲーム禁止
  2. 平日は、ゲームは1日60分まで
  3. 休日は、ゲームは1日90分まで
  4. 罰則規定はない

 
といった条項が盛り込まれているようです。
パブリックコメントが採決後にしか公開されないことで、
「本当にこの条例が必要なのか」
に関しては、香川県議会のお堅い役人たちが独断したようです。
 

評価としては「賛否」がさまざま

 
Twitterでは賛否入り乱れていますが、可決の仕方も含めて批判が多いようです。


  

そもそもゲーム依存症ってなに?

 
そもそもゲーム依存症とはなんなのでしょうか?
 
ゲーム依存」という言葉だけが一人歩きしている気がします。
 

ICD-11より「ゲーム『障害』」が新規病名に追加

 
ICDというのは、国際的に使われている疾病分類です。
 
昨年、10から11にアップデートされていますが、日本語訳はまだです。
その中に、Gaming disorderというのが収録されました。
 
正式にはまだですが、すでに「ゲーム症/障害」という訳が使われています。
ここで、抑えておいて欲しいのは、「依存」という言葉は使われていないのです。

そもそも「依存」とは?

 
「依存」ってなんでしょうか。
有名なのは「アルコール依存」でしょうか。
朝からお酒を飲んで管を巻いている状態を、イメージするでしょうか。
依存ということを少し書いてみると
 

  • 薬物や化学物質の反復使用
  • 身体依存はあってもなくてもいい
  • 徐々に使用量が増えていく
  • 使用できないと重篤な症状が出る
  • その症状を改善するために「物質」をどんな手を使っても追い求める

そして、「生活に支障」が出ている状態です。
この「生活に支障」というのがキーポイントなのです。
 
 

「生活に障害」ってなんだろう

 
生活に支障というのは、例えば以下のようなことを言います。
 

  • 仕事や学校に行くための生活リズムが整えられない
  • その依存のために食事やお風呂などの日常生活が狂っている
  • 家族の中が険悪になり、なんなら家庭内暴力がある
  • 「物質依存」を指摘されると必死になって「違う」という

 
ゲームが「障害」と呼ばれるようになるためには、
「朝が起きられなくなった」とか「食事を忘れてずっと遊んでいる」とか。
そういったことが必要です。
 
「学校から帰って宿題が終わるとだらだらゲームばっかりしている」はゲームによって障害は出ていないと判断されます
 
どうですか?
「親の思うゲーム依存」と「定義上のゲーム依存」
かけ離れていませんか?
 

アルコール依存症は断酒、ではインターネットは?

 
一般的に、アルコール依存症の治療は「お酒をやめること」です。
一生、どれだけお酒を飲まない期間があっても、「一口も飲まない」が理想です。
 

「節ネット」のすすめ

 
では、インターネットを「全て断つ」のはできるでしょうか?
 
「不可能」です。
 
最近では職場の連絡をLINEで取り合うこともあるでしょう。
仕事上でメールを使わないなどということもできません。
 
ですので、この「依存」は「適度に関わる」を目指すことになります。
 
この治療を、入院病棟で行っている病院が日本には1つしかありません。
 
国立病院機構久里浜医療センターインターネット依存症治療部門
 
です。
本当に生活がインターネットやゲームによって破綻している場合は、
こういった病院での治療を勧められることもあるでしょう。
 
 

インターネットを規制すれば問題は解決するのか?

 
インターネットを制限(香川県の場合はゲームの制限)をすれば、問題は解決するのでしょうか?
 
 

依存に陥ってしまう原因

 
依存には、「そこに至ってしまった原因」があります。
 
アルコール依存症でよく聞く話としては。
 

  • 仕事を引退して、やることがなくなってしまった
  • 家族の不和があって、アルコールに逃げてしまった
  • 慢性疾患にかかって、その治療がうまく行ってない
  • などなど

 
では、ゲームやインターネットに依存してしまうことにも、理由があります。
 

  • 学校の勉強ではみんなに勝てないので、ゲームの中では強い自分でいられる
  • 仕事では使えないという評価を受けているけれど、インターネットには仲間がいる
  • 実生活では、逃げ場がない

 

根本解決せずに上部だけ解決しようとしている

 
香川県のゲーム依存に対する条例は、ある意味画期的です。
それに追随しようとしている自治体もあります。
 

しかし、依存に陥った理由の解決なく、インターネットやゲームを奪うだけの行為は、その人を救うでしょうか?
先駆的に条例を作ることは政治家のみなさんなら簡単でしょう。
でも、ゲームやインターネットを規制すれば不登校が減る、などと考えているのだとすれば甘いです。

 

これで「学校に居場所がない」子たちが、「家にも居場所がない」になってしまわないか
10代の自殺数だけが上昇している今、「根本」に目を向けた方が良くないか?
発達障害もろもろともすごく親和性がありそうなんだけど、政治家は誰もそこまで考えてないな。

 
というのが、私がこのニュースなどに対して抱いた印象です。
 

まとめ

 
今回、ゲームを規制する条例が香川県に成立したことでこの記事を書きました。
ゲーム依存については下記の一般向けの書籍もご参考ください。






今回のまとめはこちら。

まとめ

ICD-11を受けて「ゲーム」や「インターネット」を規制する流れが生まれている
依存の根底には、依存に至ってしまうしかなかった「問題」がある
世間は、「問題」の議論なく「規制」だけに至ろうとしている

 

March 19, 2020 - posted by みずき@精神科医

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