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京都ALS患者に嘱託殺人で医師2人逮捕!から見る「積極的安楽死」問題

 

嘱託殺人を行なったとして医師2人が逮捕されました

     
京都ALS安楽死事件
2020年7月23日にスクープされました
     
     
犯人は、厚生技官を努めた経験もある
Twitterでいわゆる「医クラ」と呼ばれる人で
私もTwitterでフォローされていました
     
     

依頼をしたのは京都に住んでいるALSの患者

     
依頼をしたのは51歳の
ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気の方で
女性だったようです

    
     

そしてその方が亡くなったのは
2019年11月30日で
8ヶ月もの捜査を経ての逮捕でした

最初の依頼はSNS上で見られるやりとりでした

     
     
この記事からも分かるように
最初の犯人と亡くなった方のやりとりは
Twitterのタイムライン上で行われ
公の場で2人はつながったようです

ALSってどんな病気?

     
ここで、ALSがどんな病気か
知らない人もいるかもしれないので
書いておきます(私はALSは専門家ではありません)
     
     

 ALSとは 
  • 日本語では筋萎縮性側索硬化症といいます
  •     

  • 難病に指定されている病気です
  •      

  • 通常は60〜70代に多く発症します
  •      

  • じょじょに筋肉が痩せていく病気です
  •      

  • 運動神経が選択的に障害を受けます
  •      

  • どこの症状が最初に見られるかで4つの分類があります
  •      

  • 話しにくくなったり、食べにくくなったり、
    手足が思うように動かなくなったりしていきます
  •       

  • 一度発症すると治療法はありません
  •      

  • 進行スピードには個人差があります
  •      

  • 一般的には呼吸器を必要とするまで2-5年といわれます
  •      

  • 目の動きが障害されないため
    現在は目の動きで文字を入力したりして
    他の人との意思疎通をはかったりします
  •      

  • 認知症になったり呼吸困難が起きる例は
    予後が悪いとして知られています

     
      

安楽死・尊厳死問題

     

昔からこういった「安楽死」は
折に触れて病院で行われて問題になり
     
かといって積極的な議論もなく
日本はこの問題に関しては後進国です

    
    
尊厳死というのは
あとでいう「積極的安楽死」を指すことが多いですが
明確な定義はないので
このあとの文章では用いないことにします

     
     

安楽死には2種類ある!積極的安楽死と消極的安楽死

     

安楽死には2種類あるのを、ご存知ですか?

     
     

  • 積極敵安楽死
  • 消極的安楽死

     
があります。
     
     
今回問題になるのはこの「積極敵安楽死」です
     
     
なにをもって「積極的」なのか
なにをもって「消極的」なのか
     
この下で説明していきます
     
     

 積極的安楽死とは 

致死性の薬物の投与または服用で
積極的に患者を死に至らせるもの

     
ですので、折に触れニュースになるのはこちらです
日本には現在「積極敵安楽死」を認める法律はありません
    
    

 消極的安楽死とは 

予防・救命・回復・維持のための治療を開始しない
または開始しても後に中止することによって
人を死に至らせる行為

     
この消極的安楽死については
現在日本でも認められており
     

患者本人(もしくは一番近い親族など)の明確な意思表示があれば
消極的安楽死は認められています

     
      

裁判所の提示した安楽死の4要件

     
数ある病院が積極的安楽死を行った事件で
名古屋高等裁判所や横浜地方裁判所が
この要件を満たせば安楽死を行なっても訴追されないと
提示した4つの要件があります

     
     

 安楽死の4つの条件 
  • 患者本人の明確な意思表示がある
    (意思表示能力を喪失する以前の自筆署名文書による事前意思表示も含む)。
  • 死に至る回復不可能な病気・障害の終末期で死が目前に迫っている。
  • 心身に耐えがたい重大な苦痛がある。
  • 死を回避する手段も、苦痛を緩和する方法も存在しない。

     
     
ただし積極的安楽死でも自分で行う」場合は
自殺とみなされ誰かが罪に問われることはありません

「死ぬこと」は権利なのか

      

死ぬことは「権利」なのでしょうか

     
     
この問題には答えがありませんが
死生観は宗教と密接に関係し
プロテスタントの国で
安楽死が認められやすい傾向があります

     
     

日本は特定の宗教を持たないため
あまり宗教上の死生観は取り沙汰されませんが
イスラム教やカトリックでは自殺が禁止されているので
そういった国では安楽死は認められにくいです

     
     

今回のケースを見てみよう

     
ここまではいろいろな定義の話をしましたが
ここからは今回のケースについて見ていきましょう
     
     

4要件を満たすとはとても考えにくい

     
今回の事件は、以下の点から
安楽死という表現を使うことすら
憚られる事件ではないかと考えます
    
     

  • 容疑者達は亡くなった患者の主治医ではない
    (過去の安楽死事件は全て主治医が行っています)
  •     

  • 終末期にまだ至っていない
  •      

  • 苦痛を緩和する手段が本当になかったのか
    非常に疑わしく
    医師達がこの条件を念頭に置いたかも不明

      
      

さらに金銭授受が発生していた

      
さらに女性から容疑者に金銭振り込みがあり
こうなるともはや金銭目的の嘱託殺人としか
言いようがありません

    
     

過去の安楽死事件と
同じ土俵で議論しては行けません

     
     

この事件から考えていくべきこと

     
それだけで終わっては
私が書いている意味がないので
     
この事件をうけて考えていくべきことは何か
書いてみたいと思います
     
「今」だから考えたい死生観の話
     
でも、触れていますので
そちらの記事も参照してください
    
     

身内なら、自分なら、どうしたいか?

     
積極的安楽死が議論に上るほど
日本が成熟した社会になるとは思えませんが
     
     
自分が、身内なら、どうしたいだろうか?
と考えることはできます
     
      

元気なうちに意思表示しておこう

     

今回は「積極的安楽死を装った嘱託殺人」でしたが
「消極的安楽死」について考えたり
家族で話し合ったりしておくと
将来に備えられます

     
基本的には「本人の強い意志」が大事なので
元気なうちに「明確な文書」に残しておくといいでしょう

     
     

高齢になってくると入院時に方針を聞かれることも

     

たとえば、当院では高齢者の入院は
「心肺停止で発見された場合」
など、消極的安楽死の意思を
入院時などに聞いています
    
最近はそういった病院は多いはずです

     
     

今後、「積極的」安楽死が認められるには「法律」が必要

     

現在は「法律として議論される土壌」がないと書きましたが
この「積極敵安楽死」を認めるか認めないか
決めるのは「政治家」の仕事です
     
法律が必要であるからです

    
    

2020年現在、法律で安楽死が認められている国

     
2020年7月現在
「積極的安楽死」が認められているのは
以下の国になります
    
     

  • スイス🇨🇭
  • アメリカ合衆国🇺🇸
    (オレゴン州・ワシントン州・モンタナ州・バーモント州・ニューメキシコ州・カリフォルニア州)
  • オランダ🇳🇱
  • ベルギー🇧🇪
  • ルクセンブルグ🇱🇺
  • カナダ🇨🇦
  • オーストラリア🇦🇺
    (ビクトリア州)
  • 韓国🇰🇷

    
    
ただし
「望めばすぐ安楽死できる」
わけではなく
かなり長い道のりをクリアして認められれば
安楽死の権利が認められる
ということです
     
     

医師に「積極敵安楽死」を望まれても「法律で無理」です

     

ですので
現時点で法律がない以上
医師に対して「殺してくれ」といっても
それは無理になります

    
    
この嘱託殺人のような犯人になりたいと
思う医者はほぼいないといっていいからです
(私だって犯罪者になりたいとは思いませんし)

     
     

希望があるなら医療に訴えるより政治家に!

     
もし今後「日本も積極的安楽死を認めてほしい」なら
その場合は政治家になって法律を変えていくしか
方法はありません

     
     
でも繰り返し書いているように
日本人の死生観は特定の宗教がないぶん
かなり多様性を持っているため
     
なかなか法制度の上で
議論にはなりにくいのが現状です

    
     
法律になっていない以上
「医師である自分が目の前で死を望み苦しむこの人を死なせたい」
という考えは、医師という職種の領域を超えた「傲慢」です。

まとめ

まとめの前に安楽死について扱った本を
お勧めさせていただきたいと思います
     

    
神の手については下巻もあります。
また、DVDもありますので、ぜひ。
    


    

まとめ

安楽死には「積極的安楽死」と「消極的安楽死」がある
    
積極的安楽死は日本では法律上認められていない
     
消極的安楽死は元気なうちの意思表示で認められている
     
現在議論に上っていないので法律が整う目処はない
    
安楽した認められている国は8ヶ国
     
認められている国に出向いて安楽死を受ける人もいる
     
今回の京都の嘱託殺人は
安楽死として語ってはいけない杜撰な嘱託殺人
     
しかし「死」について考えることは大事なので
話し合うきっかけにしてもらえばと思います