発達障害を持つ女医がこころの病気と健康について語る。
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「治る」ってどういうこと?-医学的視点とトンデモ視点-

 

「治る」って、かんたんに使っていませんか?

   
   

「風邪ひいたの?大丈夫?」
「全然!もう治ったよ!」

   
   
よくある会話ではないかなと思います。
   
職場や学校で、
こんな会話はたくさんあります。
   
   
でも、「治る」ってどういうことでしょうか?
   
   
あんまり考えずに、
かんたんに「治る」って、
言っていませんか?

   
   

具体例:怪我が「治る」

   
   
「怪我が治る」を例にしてみましょう。
   
   

転んで手をついてしまい、骨折した。
   
→整形外科でギプスを装着、
 安静を保つこと4週間、ギプスが外れる
   
→「もう通院の必要はないですよ。」
   
→「治った!!」

   
   
こういう認識ではないでしょうか?
   
   

「折れた骨」が「再生してくっついた」のであって、
「折れた骨」が「折れなかったときの状態に戻った」ということではない
ことはお分かりかと思います。

   
   
    
では、次の例を見てみましょう。
   
   

具体例:インフルエンザが「治る」

    
    
小学生や保育園でよく求められる「治癒証明」
あれほど無意味なことはありません。
    
    

熱が出て、検査をしてもらったら「インフルエンザ陽性」
    
→「タミフル」を服用
   
→熱は下がったが、鼻がグズグズいっている
   
→熱が下がっている状態が2日続く
 でもまだ鼻はグズグズしているので少ししんどい
   
→熱もなく、鼻も通るようになった
   
→「治った!」

   
   
こんな感じでしょうか。
ちなみに、「治癒証明」だけなら、
「解熱後2日」でいいので、
1つ前の段階でも書いてもらうことができます。

   
   
でもまだ鼻がグズグズしていたら、
その段階で「治った」とは言わないですよね。
   
   

そして実は、全く症状がなくても
インフルエンザウイルスの排出はもう少し続きます。
(参考文献)

    
    
ウイルスの排出が0にならないと、
「他人に感染しない時期は終わっていない」
と考えていないでしょうか。
感染の回避だけなら「4日」でいいと書いてあります

   
逆にいえば、ウイルス排出量が0にならなくても、
「治った」と感じる時期は訪れるのです。

    
    

ガンが「治る」??

     
    
いっぽうで、「ガンが治った」という人はいるでしょうか。
    
     
手術でガンが取りきれても5年は通院が必要ですし、
追加で放射線治療や抗がん剤治療をする人もいます。
    
    

「5年経ったからもう通院は必要ないですね。
    
「治った!」

   
でしょうか。
    
    
とった臓器は再生するわけでもないし、
なんなら5年以上経って「再発」することもあります。

    
    

発達障害が「治る」??

    
    

発達障害は治る!!
   
子どもを診断の枠組みから救い出す!!

   
   
ときどき見る意見です。
    
発達障害については
「どのレベルが病気と認識されるか」
に時代背景などが影響しますので、
   
「今日は自閉症と言われなかったけど、
50年前だったら確実に施設に入れられていた」
という状態の人、
逆に50年前は病気じゃないけど今は診断される人、
たくさん存在します。

    
    
その状態で「治った」というのはどういうことでしょうか。
     
     

医者はなかなか「治る」と言えない

    
    

「治った」の定義
    
労災上の「治癒」の定義は、
症状が安定し、疾病が固定した状態にあって、治療の必要がなくなったもの
のことです。
   
いっぽうで、一般的なイメージとしては、
       
「健康体に戻ること」
もしくは
「元の状態に戻ること」
    
と考えておられる方が多いかと思います。
しかし、どんな病気も
「病気になる前の自分になる」
ことは、不可能です。
   
「見た目が同じ」であったとしても、
身体も新陳代謝をしますし、
「完全に同じ」
とは言いきれません。
    
医学的に「治癒」という言葉はありません。
    
医学的には「寛解(かんかい)」という言葉を使います。
   
症状が困らない程度になくなっていて、
臨床的に「コントロールされていること」です。

    
    
これを頭に入れて、次を見てみましょう。
    
    

医師が「治る」ということには責任を伴う

    
    

「医師」というのは「業務独占資格」です。
「医師の行う業務」というのは「医業」といわれ、
「医師免許」がないと行うことができません。
    
それだけ、専門性の高い仕事です。
    
専門性が高いだけに、「責任感」は必要以上に必要です。
(まともな医師の場合)

     
TwitterなどのSNSで発信する場合も、
「医師」であることを明かして
「医療情報」をツイートするのであれば
責任や覚悟を持ってやっている先生がほとんどと考えます
    
    

「寛解」では満足できずに「治った」と言ってほしい心

        

でも「寛解」って聞きなれないですよね。
「治った」という言葉を聞きたい人がいっぱいいること、
医師の側でもわかっています。
そして、一般的な「治った」のイメージが上記であれば
「治った」とはかたくなに言えなくなってしまうのが現状です。


    
    

トンデモ医学を唱える人ほど「治る」を使う

    
    
以前もしてきした「ニセ医学」
これを語る人たちは、気軽に「治る」と言ってくれます。
         
     

「資格のない人」は責任を伴わない

    
資格のない一般人には責任がありません。
軽口・大口、なんでも叩けます。
   
本人が「間違って解釈して信じ込んで」いても、
それを訂正する「義務」もありません。
    
   

「資格があっても」「責任を取らない」人もいる

     
いっぽうで、医師免許を持ちながらお金儲けに走る人もいます。
    

  • うつ消しご飯
  • 食事で発達障害が治る
  • ガン放置療法
  • がんもどき理論

   
これはただ数例を書いただけにすぎませんが、
こういったニセ医学はインターネット上でも広く散見されます。
    
    

むちゃくちゃな医療をすすめる人ほど「治る」と言う

    
ノーベル医学生理学賞をとった「免疫療法」
    
でも、それとは似ても似つかない「免疫療法(自費)」が、
インターネット上には溢れています。
    
    
病気になる前は「そんなことありえない」と思っていても
いざ現実となると「そんなこともあるのかな」と思いたくなる。

    
    
むちゃくちゃな医療にはそれだけの
「現実不可能な理想と希望」
が散りばめられています。

「藁をもつかみたい」人に「藁にすらならないもの」を提供

    
「藁をもすがる気持ち」を利用するのです。
   
でも、あなたの目の前に差し出された「藁」は
なんなら「藁にすらならないもの」なのです。

    
    

調子が本格的に悪くなると標準医療におしつける

    
そういった医療は、「本当に困ったとき」には助けてくれません。
    
   

ガンを放置することを信じていたが、
進行して症状が悪化し、痛みが我慢できなくなった
→それは本当のガンだったんですね。
    
とか。
   
統合失調症に対して薬をやめて食事療法だけにしたら、
幻覚妄想状態で暴れ出した
→それは警察を呼んではどうですか。

    
    
症状が悪化して面倒見きれなくなった信者には塩対応です。
    

まとめ−本当に信じるべきはだれ?−

    

まとめ

「治った」という言葉は医学用語ではない一般の言葉
「治った」のイメージで話を進めると医師は責任が取れない
責任感が強いまともな医師ほど「治った」「治る」とは言えなくなる。
    
その「治った」を望むままに言ってくれるのはニセ医学。
藁をもすがる気持ちに、藁にすらならないハリボテを差し出し、
「一時的に希望と理想にあふれた気持ち」
だけを作り出し、病気が悪くなったらポイ。
    
あなたは、どちらを信じるべきだと思いますか?

July 07, 2020 - posted by みずき@精神科医

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