発達障害を持つ女医がこころの病気と健康について語る。
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ADHDで服薬している人は運転免許を取れないのか?

 

日本には、「自動車運転禁止薬」があります

今回は、発達障害に関わる話なのですが、まず前提として、「自動車運転禁止薬」の説明から始めさせてください。
日本では「その薬を飲んでいる間は自動車の運転をしてはならない」と定められている薬のリストが存在します。
(リンク先は鳥取大学の薬剤部のページに用意されているPDFになります。)

精神科の薬は、その大半が自動車運転禁止薬に認定

ここにいまからあげる薬は、精神科の薬の一部ですが、リストをじっくりと眺めてみると分かる通りに、精神科の薬は基本的にほぼ全てが「自動車運転禁止薬」であると言っても過言ではありません。

ジェイゾロフトはうつの薬、シクレストは統合失調症の薬です。

アモキサンはうつの薬、アリセプトはアルツハイマー型認知症のお薬、アモバンは睡眠導入剤です。

エビリファイは統合失調症の薬で、1ヶ月に1回の注射もあります。
その注射を使っていても、やっぱり「運転は禁止すべき」になってしまうんですよね。
どんな病気で、どんな薬を飲んでも、「自動車運転禁止薬」にあたりそうなことは、わかっていただけましたでしょうか?

ADHD(注意欠如多動性障害)の治療薬も、禁止薬のひとつ

ADHDには現在4つの薬があります。ここでは、取り敢えず最近発売されたビバンセについては、小児にしか適応がないので免許とは今のところつながらないので置いておきましょう。
では残りの3つの薬はどうかというと。



アトモキセチンがストラテラの別名なので、現在大人のADHDに使える薬は、服用している段階で全てアウトになります。

ADHDで治療中の人は免許を取れないのか?

現段階では、運転免許を取得することはできません。
(運転免許取得後に内服を始めた場合は所持している可能性はありますが)

ADHDの人は、健常者と比べて自動車事故が多い

ADHDの人は、一般の人と比べておおよそ1.3倍、深刻な輸送事故のリスクが増加することが知られています。(引用元:ADHDと道路交通事故の相対リスク:メタ分析
集中力がすぐに途切れてしまったり、他のことに気が入ってしまったりするなどして、
「運転をする」という行為に集中できないのがその理由ではないかとされています。

私も、実際聞いたことのある話では、

コンサータを飲んでいる時と飲んでいない時で、助手席に座っている家族から「視線の様良い方」が全く違って、コンサータを飲んでいない時の運転は怖い。

という指摘を受けたという人がいます。
その人は自損事故を車の運転を始めて10年で10回近く起こしており、まだ自損事故で済んでいるからいいようなものの、いつか他人を巻き込んだ事故をするのではないかと危惧しています。
(10年で自損事故(原付・車を合わせて)は明らかに多いですよね)

一方で「治療薬を飲むこと」で事故が減るという論文がたくさん

一方で、ADHDをきちんと治療することで「事故を減らせる」という論文がたくさんあります。
「これは、ADHDの男性に限るが、コンサータの投与が58%事故のリスクを減少させた」という結果が得られています。

薬を飲んでいたら自動車の運転ができないのに、薬を飲んでいなかったら人の1.5倍事故が多く、薬を飲んでいる方が事故を減らせる。

少し、矛盾する結果が出てきましたね。

今後の議論は、学会などが動かないと難しい

しかし、1つ研究が出て、「だからADHDの人は治療をしながら運転免許を取るべきだ」と1個人の医師が発言しても、法律が変わることはありません。

この場合に必要なのは、「学会の声明文」であるとか「政治家が主張する」とかになります。

実際に、車がないと不便なことはある

実際に、一家に一台ではなく、1人に一台の車が必要な地域というのも現在の日本で残っており、「運転免許が必要な職業」というのも存在します。
その点、運転免許が現段階で取れそうにないADHDの人は、将来の職業選択を狭められてしまっていますね。

まとめ(問題提起)

今回のまとめと問題提起
  1. 現在日本には服用していると自動車運転を禁止される「薬物リスト」が存在
  2. 精神科で使うような薬はほぼ全てが対象となっている(程度の差はあるが)
  3. ADHDの治療薬は全て「運転に従事させないように」との勧告がある
  4. しかし、ADHDの事故率は1.3倍と今までまことしやかに言われてきた4倍よりは少ないものの、一般人より高い傾向がある
  5. しかし、論文では「メチルフェニデートを使うことで事故のリスクを低下させられた」という言及もある
  6. 現在「薬を飲んでいると運転免許が取れない」が「薬を飲んでいない方が事故率が高く」「薬を飲んでいる方が事故の確率を下げられる」という矛盾が起きている
  7. 今後のあちこちの学会の声明文や外国での方針転換が待たれます

念のために、こういった本は発売されています。薬を飲んでいない発達障害者向けの本ですね。